医療費控除は、1年間に支払った医療費が一定額を超えたときに、その分だけ所得税・住民税が軽くなる制度です。ただ「いくら戻るのか」がわかりにくく、「10万円を超えないと使えない」「払った医療費がそのまま返ってくる」といった誤解も多いところです。

この記事では、医療費控除の計算式と実際にいくら戻るのかを、年収別の目安つきで整理します。あわせて対象になるもの・ならないもの、交通費や市販薬の扱い、確定申告・スマホ(マイナポータル)でのやり方までまとめます。

📌 この記事でわかること

  • 医療費控除の仕組みと「10万円の足切り」
  • いくら戻るかの計算式(控除額 × 所得税率)
  • 年収別・医療費別の還付金の目安
  • 対象になるもの/ならないものの一覧
  • 確定申告・スマホでのやり方と5年さかのぼり申告

戻る額は「所得税率」で決まります。自分の年収で所得税と住民税がいくらかかっているかは、手取り計算ツールに年収を入れると内訳で確認できます。このページの試算(年収別の還付額)も同じ令和8年分の計算を使っています。

医療費控除とは(10万円の「足切り」と対象者)

医療費控除は、本人と生計を一にする家族が1年間(1/1〜12/31)に支払った医療費の合計が、原則10万円を超えた場合に、超えた部分を所得から差し引ける制度です。国税庁の要件は「納税者が、自分または生計を一にする配偶者・親族のために支払った医療費」なので、家族の医療費を誰が払ったかが基準になります。共働き世帯では、その医療費を所得が高い人にまとめて申告したほうが有利になることが多いです。

ここで重要なのが、10万円は「足切り(足切額)」だという点です。支払った医療費すべてが控除されるわけではなく、10万円を超えた部分だけが対象になります。

その年の総所得金額等が200万円未満の人は、「10万円」ではなく「総所得金額等の5%」が足切額になります。パートや扶養内で働く人などは、10万円未満でも控除を受けられる場合があります。

いくら戻る?計算式と還付金の仕組み

「いくら戻るか」は2段階で計算します。まず控除額を出し、それに所得税率をかけたものが、戻ってくる所得税(還付金)の目安です。

① 控除額(最高200万円)

控除額 =(支払った医療費 − 保険金などで補填された金額)− 10万円

「保険金などで補填された金額」とは、生命保険の入院給付金や、高額療養費・家族療養費・出産育児一時金などです。これらは差し引く必要があります。なお、差し引くのはその給付の目的になった医療費の範囲内だけです。たとえば入院給付金が入院費を上回っても、余った分を他の医療費から引く必要はありません。

② 戻ってくる所得税(還付金の目安)

還付される所得税 = 控除額 × あなたの所得税率(5%〜45%)

ここがいちばん誤解されるポイントです。控除額がそのまま戻るのではなく、控除額に「所得税率」をかけた分しか戻りません。所得税率は課税所得によって変わるため、同じ控除額でも所得が高い人ほど戻りが大きくなります。

③ 住民税も翌年度に安くなる

所得税の還付に加えて、**翌年度の住民税が「控除額 × 10%」**ほど安くなります。つまり実際の節税効果は「所得税の還付 + 住民税の減額」の合計です。

例:年間の医療費が25万円、保険金の補填なし、所得税率10%の人の場合。控除額は 25万 − 10万 = 15万円。所得税の還付は 15万 × 10% = 15,000円、翌年度の住民税の減額が 15万 × 10% = 15,000円。あわせて約3万円が軽くなる計算です。

実際には、所得税には**復興特別所得税(2.1%)**が上乗せされているため、戻る額は「控除額 × 所得税率 × 1.021」とやや大きくなります(以下の年収別の試算はこの1.021を含めています)。

所得税が0円の人は、所得税の還付はありません。国税庁によると、還付されるのは源泉徴収などですでに納めた所得税があるときだけです。給与の源泉徴収票で「源泉徴収税額」が0円の人は、申告しても所得税は戻りません(住民税が安くなる分は別です)。

自分の所得税率(課税所得の帯)がわからないときは、まず手取りと課税のベースを把握しておくと見当がつきます。年収から税金・社会保険料を引いた金額は手取り計算ツールで、給与から引かれる社会保険料は社会保険料計算ツールで確認できます。

年収別・医療費別の早見表(目安)

所得税率は、年収そのものではなく課税所得(年収から給与所得控除・基礎控除・社会保険料控除などを引いたあとの金額)で決まります。独身・給与収入のみ・社会保険料控除だけの人の場合、当サイトの令和8年分の計算では次のあたりで税率が切り替わります。扶養家族や各種控除があれば、同じ年収でも低い税率の帯になります。

所得税率課税所得年収のおおよその目安(当サイト試算)
5%195万円以下約530万円まで
10%195万円超〜330万円以下約530万〜670万円
20%330万円超〜695万円以下約670万〜1,080万円
23%695万円超〜900万円以下約1,080万〜1,300万円

これをふまえた「所得税の還付金の目安」が下表です(総所得200万円以上=足切り10万円のケース)。

支払った医療費控除額税率5%税率10%税率20%
15万円5万円約2,500円約5,000円約10,000円
20万円10万円約5,000円約10,000円約20,000円
30万円20万円約10,000円約20,000円約40,000円
50万円40万円約20,000円約40,000円約80,000円

※これは所得税の還付分のみ(復興特別所得税を含まない簡易計算)。実際は別途、翌年度の住民税が「控除額×10%」ほど安くなります。

年収別の還付額の試算(医療費30万円・補填なしの場合)

同じ医療費でも、年収によって戻る額は大きく変わります。医療費が30万円(保険金などの補填なし)なら、控除額は 30万 − 10万 = 20万円です。当サイトの手取り計算と同じ前提(令和8年分・独身・給与収入のみ・東京都・30歳・社会保険料控除のみ)で、控除額20万円ぶんの所得税・住民税の減り方を計算すると次のとおりです。

年収課税所得所得税率所得税の還付翌年度の住民税の減額合計の目安
300万円約52万円5%約10,200円20,000円約30,200円
400万円約112万円5%約10,200円20,000円約30,200円
500万円約180万円5%約10,200円20,000円約30,200円
600万円約244万円10%約20,400円20,000円約40,400円
800万円約427万円20%約40,800円20,000円約60,800円
1,000万円約617万円20%約40,800円20,000円約60,800円

所得税の還付は「控除額20万円 × 所得税率 × 1.021」、住民税の減額は「控除額20万円 × 10%」です。年収300万円・400万円・500万円は同じ5%の帯に収まるため、還付額が同じになります。住民税の減額は年収にかかわらず10%で同じなので、年収が低い人ほど、合計に占める住民税の減額の割合が大きくなります。

控除額が大きいと、税率の帯をまたぐことがある

控除額が大きい年は、「控除額 × 所得税率」の単純計算より還付が少なくなることがあります。控除によって課税所得が下の税率の帯に入ると、その部分には低い税率しかかからないためです。

たとえば年収600万円(課税所得約244万円・税率10%)の人が、医療費80万円(補填なし)を支払って控除額が 70万円 になった場合を考えます。

  • 課税所得:244.5万円 → 174.5万円(195万円以下なので5%の帯に下がる)
  • 所得税(復興特別所得税を除く):147,000円 → 87,250円。差は59,750円で、復興特別所得税2.1%を加えると約61,000円の還付
  • 住民税:70万円 × 10% = 70,000円の減額

「70万円 × 10% = 7万円」ではなく約6.1万円になり、住民税とあわせて約13.1万円が軽くなる計算です。控除額が数十万円を超えそうなときは、税率を単純にかけた金額より少し控えめに見積もっておくと安心です。

※これらは当サイトの概算で、生命保険料控除・扶養控除・ふるさと納税などを含めた実際の税額とは異なります。正確な還付額は、確定申告書等作成コーナーで入力すると自動計算されます。

「10万円ちょっとで意味ない」は本当?

「医療費が10万円を少し超えただけでは、医療費控除は意味がない」とよく言われます。これは半分正しく、半分誤解です。

たとえば医療費が11万円なら、控除額は 11万 − 10万 = 1万円だけ。所得税率5%なら還付は500円、住民税の減額を入れても1,500円ほどです。手間のわりに金額が小さいのは事実です。

一方で、医療費が大きい年や、総所得200万円未満で足切りが5%になる人、所得税率が高い人なら効果はしっかり出ます。「10万円を超えたら一律で得」ではなく、「10万円を超えた分 × 税率」で考えるのがコツです。

対象になるもの・ならないもの一覧

医療費控除の対象は「治療を目的とした支出」が基本です。予防や美容のための支出は対象外になります。

✅ 対象になるもの(例)

  • 病院・クリニックの診療費、治療費、入院費
  • 治療目的の歯科治療(保険外でも治療なら可)、子どもの歯列矯正
  • 医師の処方薬、治療目的の市販薬
  • 出産費用(妊婦健診・分娩費用など)
  • 通院のための公共交通機関の運賃(電車・バス)
  • 介護保険サービスの自己負担分の一部

🚫 対象にならないもの(例)

  • 予防接種、健康診断・人間ドック(※異常が見つかり治療した場合は対象)
  • 美容目的の施術(美容整形、歯のホワイトニングなど)
  • 健康増進のためのサプリメント・ビタミン剤
  • 通院の自家用車のガソリン代・駐車場代
  • 本人都合の差額ベッド代

交通費・市販薬の扱い

通院の交通費は、電車やバスなどの公共交通機関なら対象です。電車やバスは領収書が出ないことが多いため、国税庁は、診察券などで通院した日を確認できるようにしたうえで、金額を記録しておくよう案内しています(歯の治療の通院費の説明より)。国税庁は、タクシー代は「電車やバスなどの公共交通機関が利用できない場合」を除いて対象外、自家用車で通院するときのガソリン代や駐車場代も対象外としています。

市販薬は、治療目的なら通常の医療費控除に含められます。さらに、対象のOTC医薬品(スイッチOTC)を年間12,000円超購入した場合に使える「セルフメディケーション税制」という別枠もあります(控除上限88,000円)。ただし通常の医療費控除とは選択制で、両方は使えません。医療費の合計が多い年は通常の医療費控除、市販薬中心の年はセルフメディケーション税制、と有利なほうを選びます。

申告のやり方(確定申告・スマホ・5年さかのぼり)

医療費控除は年末調整では受けられません。会社員でも確定申告(または還付申告)が必要です。

  1. 医療費の領収書を集める:1年分を本人・家族分まとめます。
  2. 「医療費控除の明細書」を作る:領収書ごとではなく、医療機関別に合計を記入。健康保険組合の「医療費のお知らせ」を使うと入力が省けます。
  3. 確定申告書を作成・提出する:国税庁の「確定申告書等作成コーナー」やスマホ(マイナポータル連携)で、源泉徴収票の数字を入力すれば還付額が自動計算されます。
  4. 還付を受ける:指定口座に還付金が振り込まれます。

領収書そのものは、令和2年分(2020年分)以降の申告では提出不要(明細書を添付)ですが、国税庁によると、確定申告期限等から5年を経過する日までは、税務署から領収書の提示や提出を求められることがあります(医療費通知を添付した分を除く)。領収書は5年間は保管しておくと安心です。領収書の枚数が多い人は、国税庁の「医療費集計フォーム」(表計算ソフト)に入力して確定申告書等作成コーナーに読み込むと、入力の手間が省けます(セルフメディケーション税制ではこのフォームは使えません)。

申告し忘れても、過去5年分はさかのぼって還付申告ができます。還付申告は、確定申告の期間とは関係なく、その年の翌年1月1日から5年間提出できます。ただし先ほどの注意のとおり、すでに納めた所得税がない年は、申告しても所得税は戻りません。「去年の医療費を申告していなかった」という場合もあきらめず手続きしましょう。

出典・参考

この記事の計算式・足切り額・上限額・保険金の差し引き方・領収書の保管・還付申告の期間・対象になる医療費の範囲は、2026年10月に国税庁タックスアンサー(令和8年4月1日現在法令等)で再確認しました。年収別の還付額は当サイトの概算です。個別の判断は、管轄の税務署にご確認ください。

よくある質問

医療費控除で10万円ちょうど払ったら、いくら戻ってきますか?

10万円は足切りなので、支払いが10万円ちょうどだと控除額は0円、還付も0円です。戻るのは「10万円を超えた分 × 所得税率」です。

年収500万円だと医療費控除でいくら戻りますか?

当サイトの令和8年分の試算(独身・給与収入のみ・社会保険料控除のみ)では、年収500万円の課税所得は約180万円で、所得税率は5%の帯です。たとえば医療費30万円なら控除額は20万円で、所得税の還付は約10,200円、加えて翌年度の住民税が約20,000円安くなり、合計で約30,200円です。扶養家族や他の控除がある人は、さらに低い課税所得になることがあります。

医療費控除はいくら以上ならやったほうがいいですか?

年間の医療費が10万円(総所得200万円未満なら総所得の5%)を超えていれば申告する価値があります。金額が小さくても、スマホで数分の手間なら申告して損はありません。

源泉徴収票の所得税が0円でも、医療費控除を申告する意味はありますか?

所得税の還付はありません。国税庁は、還付は源泉徴収などですでに納めた所得税があるときに発生すると説明しています。ただし、住民税は別の計算なので、課税されている人であれば医療費控除を申告すると翌年度の住民税が安くなる場合があります。

共働きの場合、どちらで申告すべきですか?

所得税率が高い(年収が高い)ほうにまとめて申告するのが基本です。控除額が同じでも、税率が高い人のほうが還付額は大きくなります。